底の無い壺で粒状物質を留める方法陽だまりにほころぶ花と愛し君この幸せを何にか例えん日記
日記
24日に書いたと思ってた記事が消えてた。
それと似たような内容なんだけど、最近地震が多い。そして地震の直前にフルトが必ず「ほら」って言う。最初は何のことかわからなかったけど、Tさんが言うには、寝てて動けない分地震の揺れを早く感じ取って教えようとしてるんじゃないかって言ってた。 最近フルトは少し表情が出せるようになった。「おはよう」って言うと笑う。話しかけるとだいたい笑ってくれる。Tさんは笑い方がフルトのお父さんそっくりだって言ってた。 日記
フルトが喋った。
朝、顔を拭いてたら唇を動かしてたから手を止めたら、息を吐くような小さな声でゆっくり一言ずつ「ありがとう」って言った。嬉しくなって「もう一回言って」って言ったらゆっくりまばたきして、また一言ずつ「M、ありがとう」言ってくれた。「Mさん」じゃない呼び方だったから記憶が戻ったのかと思って聞いたら「わからない」って言って眠ってしまった。 慌てて看護婦さん呼んで、お医者さんも来てくれて、見てもらってる間に的場さんにフルトが喋ったこと教えたらすごく喜んでくれた。 少ししてTさんと北見さんが来て、午後からは宮城さんと鈴木さんが来てくれた。 Tさんが目を覚ましたフルトに話しかけてる間、北見さんと宮城さんが病室についててくれて、おれは宮城さんが持ってきた菓子折りをナースステーションに届けようと思って部屋から出た。そしたら廊下のつきあたりで的場さんと鈴木さんが話してた。何話してるのかは聞こえなかったけど、的場さんは鈴木さんの左肩に腕を乗せて疲れたような感じだった。声をかけようか迷ってたら、鈴木さんが右手で的場さんの髪をグシャグシャって感じでなでてた。きっと的場さんはフルトにはもちろん、おれや他のひとにも心配させないように弱い所は見せないようにしてたんだと思う。鈴木さんが来てやっと的場さんも弱音を吐ける場所ができたのかもしれない。そう思っておれは声をかけるのをやめた。 フルトは結局、Tさんにも「ごめんなさい」と「大丈夫」しか言わずに寝てしまった。明日はもっとたくさん話せるといいな。 日記
日記
今日のフルトは昨日よりも長い時間目を覚ましてた。薬を増やしたからか血圧も脳波も安定してて、話そうとする素振りも見れた。まだ声は出なかったけど。
おれが視界に入るとじっと見上げてきて、笑いかけたらゆっくりまばたきした。まだはっきりとした表情がない。表情や声を出せるくらい調子が戻ってないのかな?それとも・・・。そんな風に考えてて、たぶんおれが不安そうな顔をしたんだと思う、フルトの目も不安そうな目になったから、笑いかけたらまたじっとおれを見て何か言いたそうにしてた。 午前中に一度先生が様子を見に来てくれた。それと入れ替わりにTさんと北見さんも来てくれた。Tさんはフルトの耳元で小さな声で何か言って、フルトはまたゆっくりとまばたきをしてた。何を話したのか気になったけど、ちょうど北見さんが話しかけてきてそのまま一緒にロビーに行ったからわからなかった。 ロビーで北見さんから封筒を渡された。宮城さんからだって言われて中を開けたら遺言書が2つと封書が一通入ってた。ひとつは開封された跡があって、もうひとつはロウみたいなので封がしてあった。 見てもいいのかわからなくて北見さんを見たら頷いてくれたから、開いてる方から読んでみた。 それは会長さんのお母さんの遺言書だった。その中には会長さんやTさんに宛てた言葉が書いてあって最後の方に、フルトのお父さんのことが書いてあった。本宅の都合で振り回して死なせてしまったって。何度も「申し訳ないことをした」って書いてあった。そして、その子どもであるフルトがそれを知って本宅と関わりたくないって言ったら一切の関わりを断つことって書いてあった。前にTさんが言ってたのはこのことだったのかもしれない。 もうひとつも北見さんに確認して開けてみた。封は少し力を入れたらあっさり開いた。 日記
フルトは時々目を覚ましてぼんやりした様子だった。こっちが視界に入っていくと目を合わせたけど、まだ話すのは難しいみたいだった。
有休が尽きたらしくて、専務から休職の手続きも取れるって連絡がきた。でも休職するわけにはいかない。いま携わってる件は一応段取りつけてきたし、なによりフルトがこんな状態だから、おれだけでもちゃんと働いて稼いどかないと。いっそ仕事を病院の近くで探した方がフルトの傍にも居れるし、職場にも迷惑かけないしいいのかな? 日記
お医者さんが山は越えたって言った。
フルトの様子がおかしいのに最初に気づいたのは的場さんだったらしい。めずらしく午前中から眠いって横になってたフルトは気づいたときには息をしてなかったって言ってた。すぐに的場さんが心臓マッサージをしてくれて、お医者さんがついたときには呼吸も戻って意識もあったんだけど、すぐに今度は発作が起きてまた心停止。今度はお医者さんが呼び戻してくれたんだけど、すぐにまた2度目の発作が起きて詳しい検査や処置ができる部屋に運ばれたって。おれが病院に着いたときは、まだ面会謝絶なだけだったけど、途中からICUに移された。いまは普通の個室に居る。ここに移ってからまだ目は覚めないけど、顔色も元に戻ってるし息もしてる。お医者さんも生命力の強さに驚いてた。それくらいヤバイ状態だったんだって思ったけど、でももういい。生きててくれるだけでいいって思った。 Tさんと北見さんはホテルに戻ってまた明日来るって。会長さんと宮城さんはお医者さんから話を聞いた後、どうしても外せない予定があるってすぐに帰った。フルトの妹も残るって言ってたけど、的場さんが説得して、滝川さんと筧さんに付き添われてホテルに戻っていった。 生きててくれて、よかった。 日記
日記
日記
ガラス越しにだけど、フルトの姿を見ていいって言われたから見てきた。でも、まるで知らない人みたいだった。たくさんの管とか包帯やガーゼとかで顔がほとんど見えなかったし、ちっとも動かないし、少し見えた手もいつもと違う青いような黒いようなへんな色で、あれがフルトだなんて信じられない。
一緒に居たフルトの妹は泣いてたし、Tさんもつらそうな顔してたけど、おれは涙ひと粒も出なかった。あれはフルトじゃないって思った以外何も感じなかった。おれは結構冷たいのかもしれない。 廊下に出てから的場さんに何か言われたけどよくわからなかった。他の人たちからも色々話しかけられたけどよく思い出せない。みんな苦しいような困ったような顔してた。Tさんからは「フルトはまだ生きてるんだから気を強くもちなさい」って言われた。まだってなんだよ。まるでフルトがもうすぐ死んじゃうみたいじゃん。それに、倒れそうな顔してんのはTさんの方だよ。おれは大丈夫なのに。だっておれが大丈夫じゃないと、フルト安心して治療できないんだから。 だから、できたらあんまりその声でおれを心配しないでほしい。Tさんの声って少しフルトに似てるから、フルトの妹や的場さんにしたみたいに上手く「大丈夫」って言うの難しい。 |
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